介護者が患者へ
5月のJournal of the American Geriatrics Society誌上で、配偶者の認知症を介護する人は、健康な高齢者夫婦に比べるとなんと6倍も健康状態を害する可能性が高まるという研究が発表された。
これはユタ州立大学のFamily Consumer and Human Development学部、Maria Norton准教授が主任調査員を務めた研究で、ユタ州北部のキャッシュ郡が1995年から行っている’Memory Health and Aging(良好な記憶機能と老化 の意)’についての調査で調査対象とされているユタ州北部の65歳以上の人々のデータに基づくものである。
調査対象1,221組の夫婦のうち、195組は妻か夫どちらかの認知症を抱えていた。そして、30組は夫婦共に認知症であったという。
理由は…
この研究によれば、配偶者の状態が悪化してゆく様子を間近で見ながら、肉体的にも感情的にも介護者として支えてゆくことは、介護者に対して計り知れない慢性的なストレスを与えており、このストレスが脳を衰えさせてゆくという。
また同じ家庭で生活することは、食生活や運動パターン、生活環境といった痴呆の諸要因を同様に体験していると言える。
過去の研究においても、認知症介護は介護者のうつ症状、肉体的また認知上の問題、さらには死と相関があるとされていたが、認知症介護が介護者の認知症を引き起こすとしたのはこの研究が初めてある。
この研究が第一歩
Norton准教授はさらに、自らも認知症を発症する介護者とそうではない介護者との違いを検証することで、この相関関係の要因を突き止めたいとしている。
2者の違いとして予測されるのは、介護生活におけるストレスへの対処法、支援システムや介護者の抱える心身の健康状態の違いなどが挙げられる。
休むことのできない介護生活、その慢性的なストレスは当事者でなければ計り知れないものだろう。ずっと一緒に暮らし、頼りにしていた相手がもう自分が誰なのかわかってくれない…。認知症を患っている人への支援ももちろん必要だが、介護者に対しての支援も同じように注目されるべき問題であろう。
患者よりも介護者のほうが先に救急で運ばれたり、亡くなったりという事例を少しでも減らしてゆくことは、ユタ州だけの課題では決してないだろう。
The Salt Lake Tribune 'Caring for someone with dementia could cause dementia'
http://www.sltrib.com/D=g/ci_15025208日本で認知症介護支援を行っている情報ネットワーク
DC net
https://www.dcnet.gr.jp/