パブリックコメントで異例の3,600件を超える意見数
環境省が1月9日に開催した中央環境審議会・石綿飛散防止小委員会の第8回議会で、「今後の石綿飛散防止の在り方について(答申案)に係る意見募集(パブリックコメント)」の結果が報告された。提出された意見は494通、意見件数にして3,611件と、同種のパブリックコメントと比較しても、異例といえる数多くの意見が寄せられている。
意見提出元の内訳で、個人からが378通と多数を占めた点も注目されるが、さらに特筆すべきは、答申案で示された改正方針に対し、規制内容が不十分であることを指摘したものが大半を占めた点だ。こうした不備に対する意見は3,458件と、全体の約95.8%にものぼっている。
とくに多くの指摘があったポイントとしては、第1に特定建築材料以外の石綿含有建材の除去作業などに関する点がある。環境省では、特定建築材料以外の場合、飛散性が低いため、通常の解体事業者などが特別の届出を行うことなく、作業を行えるとしているが、不適切な作業ケースの発生を未然に防止するため、全ての石綿含有建材の除去作業などについて、大気汚染防止法第18条の15で規定される届出を義務付け、その情報も開示すべきであるという意見が347件にのぼった。
第2に、一定の知見を有する者が事前調査を実施することに関連し、「一定の知見を有する者」に含まれる者の解釈で多数の意見が寄せられている。建築物石綿含有建材調査者制度により、専門の調査者を育成する取り組みが始まっていることから、この調査者の数を増やして、該当の有資格者に限定すべきとする意見が292件、環境省が要件に含めたアスベスト診断士について、民間資格であるほか、石綿の普及を図ってきた業界団体が運用している資格制度であるため、これを除外すべきとする意見が305件あったのがその代表例である。
また、第3に同じ事前調査関連で、石綿含有建材の有無が工費や工期に大きな影響を与えるものとなるため、調査は利害関係のない第三者によって行われるよう、義務付けるべきという意見も多く、342件寄せられた。これについては小委員会での議論でも、調査実施者を第三者にすべきと指摘されており、有効性・客観性を確保するため、環境省では、今後表現を改める方針としている。
真に“強化”といえる内容まで課題は多数
第4に、除去作業が適切に行われたか、自治体や第三者が十分確認するよう義務付けが必要という意見が320件あった。しかし環境省では、将来的に第三者の確認を検討するとしたものの、現状では除去などの作業が相当程度多数行われる一方、確認可能な知見を有する者がまだ少ないことを理由に、工事施工者が確認を行うものとするとしている。
第5に、同省が今回、規制を見送った除去など作業時の大気濃度測定については、石綿の飛散による発がんリスクを把握するため必要と主張する意見が356件にのぼった。しかし環境省では、測定の迅速化の難しさや、評価指標と指標超過時の作業開始までにいたる措置など、全国一律での測定制度化には課題が多いとし、今後の調査研究や測定実績の積み重ねの必要性を認めるにとどめている。
一方で、大気濃度測定に平均5~7日かかるとした同省の説明に対し、必要ならば現場で測定を行い速報値を当日中に出すことも可能なはずだといった意見や、海外においても測定は当然のこととして行われているといった反論も寄せられた。
第6に、石綿含有建材の除去などを行う事業者については、ライセンス制を導入し、作業基準などで違反があった場合には、そのライセンスを剥奪できるよう制度化すべきという意見が324件、同様の許認可制を求める意見も1件あった。海外で導入されているこうしたライセンス制だが、環境省では、その他の法令遵守、作業基準遵守の徹底を図ることを先決とし、ライセンスについては必要性の検討や体制整備に時間を要するため、参考意見とするとの見解を示した。
この他にも、現場作業の適正化、情報開示など、より徹底した取り組みを求める意見が多数寄せられ、反響の大きなパブリックコメントとなったが、それを受けての抜本的見直しにつながるような環境省からの回答はおよそなく、従来の姿勢を通すかたちになっている。
(画像はPixabayより)
環境省 中央環境審議会 大気・騒音振動部会 石綿飛散防止小委員会 第8回議事次第・配付資料
http://www.env.go.jp/council/07air-noise/y0712-08b.html