インスリンの自己注射を行っている糖尿病患者では、血糖値センサーを自宅などでも用い、日常的に血糖値の管理をすることが有益とされています。このセンサーにおける素子には、従来グルコースオキシダーゼや、酵素の影響を受けないピロロキノリンキノン依存型グルコース脱水素酵素(GDH)、点滴成分の影響を受けないフラビンアデニンジヌクレオチド依存型GDH(FAD-GDH)が利用されてきました。
耐熱性・長期安定性というこれまでの課題をクリア
しかし、こうした従来の酵素を用いた血糖値センサーは、高温環境下での利用や常温での長期保存が困難という課題があり、活用できない地域が存在することや、長期にわたる利用は不可能といった点で問題がありました。
これに対し、東京工科大学応用生物学部の横山憲二教授らの研究グループは、血糖値センサーに応用できると考えられる、耐熱性と長期安定性に優れたグルコース脱水素酵素を新たに発見、その論文が1月1日付で「Applied Microbiology and Biotechnology」に掲載されました。10日に、東京工科大学から発表されています。なおこの研究は、国立研究開発法人産業技術総合研究所との共同研究によって進められたそうです。
これまで用いられているFAD-GDHは、FADを補因子としてグルコースからD-グルコノ-1,5-ラクトンへの酸化反応を触媒する酵素で、複数の常温性糸状菌から発見されています。そこで研究グループでは、より耐熱性と長期安定性に優れるFAD-GDHを手に入れるべく、好熱性糸状菌から同酵素の遺伝子スクリーニングを実施し、大腸菌と酵母を用いた作製を試みました。
まず32株の好熱性糸状菌に対し、Aspergillus属のFAD-GDH遺伝子に基づいて、アミノ酸配列から縮重プライマーを設計、これを用いてゲノムDNAを鋳型とする縮重ポリメラーゼ連鎖反応を行ったとされています。
東南アジアやアフリカなどの地域でも使える!幅広く利便性を高めて患者を助けるセンサーに
すると、複数の株において、FAD-GDH遺伝子とよく似た遺伝子断片の増幅を確認することができたため、この遺伝子断片をプローブとして、FAD-GDH全領域を包括するゲノムDNAをクローニング、この遺伝子がコードするタンパク質を、大腸菌と酵母で発現させたそうです。
その結果、好熱性糸状菌のTalaromyces emersoniiおよびThermoascus crustaceus由来のタンパク質は、分泌シグナル配列を除去することで、可溶性画分からの精製を行うことができました。
これらタンパク質の吸収スペクトルを測定したところ、FADに特徴的な380nm、450nm付近での2つのピークがみられ、グルコースを添加するとこの吸収が消失することから、グルコースを基質とし、FADを補因子とする酵素FAD-GDHであるとみられています。この新規に見出されたFAD-GDHは、基質特異性に優れ、常温性Aspergillus oryzae FAD-GDHよりも、高い熱安定性(耐熱性)を示すことが確認されています。
今回新たに発見された酵素は、耐熱性に優れ、長期保存が可能という特性があるため、血糖値センサーのチップに塗布して用いると、これまでの課題・問題点を解消できると考えられます。とくに東南アジアやインド、アフリカといった高温地域などでも利用が可能になり、幅広い地域での活用と長期保存の可能性が広がると期待されています。
研究グループでは今後、さらに活性と安定性の高い酵素発見を目指すとともに、今回見出した酵素を用いた血糖値センサーの実用化に向け、開発を進めていきたいとしています。
(画像はプレスリリースより)
東京工科大学 プレスリリース
http://www.teu.ac.jp/press/2017.html?id=13Applied Microbiology and Biotechnology : Identification and characterization of thermostable glucose dehydrogenases from thermophilic filamentous fungi
http://link.springer.com/