国民投票で安楽死の制限を否決
5月15日、スイスで末期患者などに対する自殺幇助を制限・禁止する法案が否決された。反対票は85.4%にのぼり、スイス国民の安楽死擁護姿勢が鮮明に示された。
また、同時に行われた投票では、スイス連邦民主同盟が提出した「スイス在住1年未満」を対象とする自殺幇助の制限・禁止動議も反対票76.4%で否決された。
スイスでは1941年以来、医師以外の利害関係がない第三者による安楽死が合法化されている。ただし致死量の薬物を譲り渡すなど、消極的な幇助に限られており、実際に薬を飲ませる、注射する、といった積極的な幇助は禁止されている。
チューリヒでは、毎年200人近くが自らの意思で命を絶っている。
各国の安楽死事情
安楽死については世界中で判断が分かれており、合法とされる国はまだ少数である。末期患者に対する医療現場での積極的幇助を認めている国は、フランス、ベルギー、オランダ、アメリカ(オレゴン州)などがある。
ベルギーでは2002年に合法化されたが、2007年には末期がん患者の安楽死が約6倍に増加している。一方、オランダでは安楽死容認前後で、治療の様態はあまり変化していないため、国によって安楽死の施術状況はかなり異なるものと見られる。
スイスで安楽死旅行ブーム
スイスでは簡便に医師以外の第三者から幇助を受けられるため、現在、「死の旅行(Death Tourism)」と呼ばれる海外から「死」を求めて訪れる旅行者が問題となっている。チューリヒに本拠がある自殺幇助クリニックでは、直近の10年間で1000人以上の安楽死を幇助してきた。
スイス連邦民主同盟が在住1年未満のものに対する自殺幇助を制限・禁止しようとしたのはこのため。否決を受け、自殺幇助を推進する地元団体「Exit」のベルンハルト・シュター副代表は
「死ぬ権利は個人の問題。国や教会ですら口を出すべきことではない。投票結果は他者に救いの手をさしのべるスイスの人道的伝統を表したもの」
と語っている。
著:ハッピーライフエンド編集長 谷垣吉彦◆BBCニュース