新しい家系図の活用方法
家系図の魅力は歴史的な要素だけではありません。医学の分野でも、家系図は科学者から注目されています。系譜学の研究から遺伝子的な欠陥がどのようにして生まれ、引き継がれてきたのかを研究する学者もいるのです。
この研究では時には1世紀前にまで遡り、欠陥を持つ遺伝子を最初に保持していたのが誰だったのかを突き止めます。遡ると同時に、今度はその子孫を割り出し、存命中の人物に起こり得る病気について警告を放ちます。
例えば、乳ガン、骨粗しょう症、うつ、あるいは先天的な不眠症や無痛症などの発症例の少ない病気も含めて、現代にはたくさんの遺伝的要因の大きな病気が存在します。
系譜学と遺伝学を組み合わせたこの研究は、これらの命を脅かす病気にアプローチできる新しい手法になるかもしれないと期待されています。
腸ガンの研究からわかる創始者効果
ユタ大学でガンの研究をしている女性は、この新しい分野の研究の草分け的存在です。彼女が10年かけて取り組んだ腸ガンの研究から、患者には遺伝的な繋がりがあることがわかっています。
彼女が研究したガン患者の家系図と系譜学のデータベースを照らし合わせると、過去に遡った場合、共通の親族がいるのです。また、その共通の祖先は、イギリスからやってきた移民であることがわかっています。
16世代に渡る計5000人のデータを使って、彼女の研究チームは腸ガンの血筋を辿りました。そして、ジョージ・フライと、その妻フィリッパに辿り着きます。彼らの起こした突然変異によって、80歳までにガンを引き起こす因子を引き継ぐ確率は75%になると見られています。
英国サマセットの織工、ジョージ・フライが家族とともにマサチューセッツの海岸に足を踏み入れた時、行動を共にしていた彼の家族も、独特の遺伝子をアメリカに持ち込むことになります。そしてその遺伝子は彼らの子孫の中に残り、今日、たくさんの人々の生命をおびやかしているというわけです。
彼女の研究によれば、この遺伝子を持つ存命中の子孫の1/3が、腸に悪性の腫瘍を抱えているといいます。腫瘍を取り除くことは事実上、危険を取り除くことに等しくなります。ジョージ・フライの血筋は、ニューヨークやユタ州などに広がっていることが確認されています。
この夫婦はこれからずっと、「創始者効果」を示す主要な例として語り継がれることでしょう。これこそ、小さなグループの中の1人、あるいは2人が、何百万もの人々を生命の危機に陥れる仕組みなのです。
さらなる研究
研究は、血筋を調べて警告を行うだけでなく、新しい治療法を確立する可能性も秘めています。例えば、発症数の少ない先天的な病気などに対する治療法です。
実際に発病している患者の家系を辿り、原因となる人物を特定します。また、患者に共通する遺伝子を突き止め、その働きを研究することで、治療法を確立するのです。この手法で、硬結性骨化症や乳がんなどの新しい治療法が模索されています。
一方で、これがやがてデザイナー・ベビーの問題に繋がるのではないかという懸念もあります。今は病気に関する手法であったとしても、そのうち頭脳指数、あるいは碧眼や金髪といった遺伝子が対象となることは明らかだというのです。
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