細胞移植治療に最適な新しい培養手法
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の中川誠人講師、山中伸弥教授らのグループは、人工多能性幹細(iPS細胞)の樹立・維持において、細胞移植治療に適した新しい方法を確立した、と1月8日発表した。研究は、大阪大学、味の素株式会社との共同研究による。
(画像はwikiメディアより引用)
動物由来成分を使わない培養へ
研究のポイントは、細胞外マトリクスを構成する分子の一つラミニンと新たに開発した培地を用いて、培養条件を整えるために必要であったフィーダー細胞を使わずにヒトiPS細胞が樹立でき、効率的に培養できる方法の開発であった。新たに確立されたこの方法では、動物由来成分も不要であり、得られたiPS細胞は各種細胞根の分化能力を保持しており、ヒトES細胞を維持培養することも可能であった。
GMPに準拠したiPS細胞作製法
研究の背景には、世界初の加齢黄斑変性に対するiPS細胞を使った臨床研究が厚生労働省に認められ、本格的な治療の開始が近づいていることがある。これまでのヒトiPS/ES細胞の研究では、マウスのフィーダー細胞や牛の血清を使用した培地が使用されており、最終的に得られる細胞の品質を不安定にする要因となっていた。また、移植に使う細胞に要求されるGMP基準を満たすためにも、動物由来成分の除去が求められている。
リコンビナントのラミニン断片を使用
研究グループは、フィーダー細胞の代わりとして、ラミニン-511に着目、その短い断片であるラミニン-511 E8断片(LN511E8)がヒトiPS細胞やES細胞の維持に有効であり、タグをつけたリコンビナント(eLN511E8)を使用することで、大量かつ高純度のものが得られるため、フィーダー細胞の代用として採用できた。このrLN511E8を使用した環境で、培養に最適なxeno-free培地を選出、味の素社と共同で最適な成分の組み合わせを見出した。
feeder-free、xeno-freeへ
今回新しく開発されたfeeder-freeかつxeno-freeの樹立・培養法を用いることで、これまでの方法に遜色のない高効率でのiPS細胞の維持培養が可能となった。操作が容易であり、発展性と再現性に優れたこの方法は、GMPに準拠した医療に使用するヒトiPS細胞の作製方法として求められてきたものである。これでまた一歩、日本発の再生医療が近づいてきたといえる。(長澤 直)

国立大学法人京都大学 プレスリリース
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