ダーウィンを描く映画「Creation」
白熱する議論、信念の喪失、信仰の不和、死とは何か、宇宙とは何か、私たちはどこにいるのかーー。進化論で有名なチャールズ・ダーウィンを知らない人などいないでしょう。
彼を主人公にして、知られざる葛藤を描く映画「Creation(クリエーション)」がついにアメリカでも公開されます。
アメリカでの公開が遅れていた理由
Creationは、ダーウィン生誕200年、さらに「種の起源」出版から150年の節目となる昨年、イギリスで製作された映画です。全世界で上映が開始される中、アメリカでは配給会社が見つからず、結局年が明けるまでに上映されることはありませんでした。
アメリカの配給会社がこの映画を好まなかった理由は、アメリカ国民にとって矛盾がありすぎたからだと言われています。キリスト教信仰の強いアメリカでは、今でも神が人間を創造したという信仰が深く根付いています。
進化論を信じるかというアンケート結果でも、信じると答えた割合は4割に留まり、半数にさえ達しませんでした。
原作となった子孫の著書
この映画は、ダーウィンの曾曾孫にあたるランダル・ケインズが執筆した書籍に基づいて製作されています。原著のタイトルは「Annie's Box」で、日本語訳では「ダーウィンと家族の絆」というタイトルが付けられています。
その名の通り、進化学の研究に身を投じるダーウィンとその家族の姿を描く形でストーリーは進みますが、その中でひときわ目立つのが、ダーウィンと妻エマの間に生まれ、わずか10歳でこの世を去った愛娘アニーの存在です。
ダーウィンの人生に影を落とした愛娘の死
ダーウィンは10人の子供に恵まれますが、その中で長女アニーは最も家族の寵愛を受ける子供でした。アニーの死から、ダーウィンは深く悲しみ、彼女の亡霊を見るようになります。
妻エマが娘は天国にいったという信仰で悲しみを乗り越えようとしていた頃、ダーウィンは神などおらず、娘の死は自然の摂理に則って、起こるべくして起こったと考えるようになるのです。
家族が描くダーウィンの姿
映画のストーリーは、アニーの死こそ、信仰と科学の間で葛藤したダーウィンの研究に大きな影響を与えたものだという、原作著者ランダルの解釈に沿って進みます。
アニーの死がここまでキーポイントとなったかどうかには異議を唱える声もありますが、一番注目すべきなのは、このストーリーが、ダーウィンの子孫という、プライベートな情報まで把握することができる人間によって描かれた家族の物語だということです。
保守的で内気だったとされるダーウィンは、もともと信仰心に厚いわけではなかったといいます。医師として成功した父を敬愛していた彼は、同じく信仰心の薄い父が死後裁きを受けるとされている教義にずっと納得がいきませんでした。
また、ケンブリッジで優秀な科学者と知り合い、議論を交わした経験が、種の起源へと発展する基盤を築いたとも言われています。
そして、妻エマとの信念の違いを超えた愛と、子どもたち、特にアニーとの関係は、彼の人生から切り離すことができません。つまり、彼の思想、延いては、彼の研究にも家族は密接に関係していたのです。
彼の人生と家族史
映画には、単に信仰か科学かという彼の葛藤だけでなく、自宅を研究室にしていた彼に深く関わっていた親族も全員登場し、多角的に彼の人生を描き出します。それは、彼の血をひく親族だからこそ描くことのできた家族史だったということができるでしょう。
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